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東京地方裁判所 平成2年(特わ)837号 判決 1992年1月10日

本店所在地

東京都大田区矢口二丁目二八番九号

東洋産商株式会社

(右代表者代表取締役 小林政雄)

本籍

東京都世田谷区成城四丁目一二番

住居

同区成城四丁目一二番六号

会社役員

小林政雄

昭和一〇年八月六日生

本籍

東京都中野区江原町二丁目八八番地

住居

同区江原町二丁目二九番一四号 江古田ハイツ一〇一号

会社役員

室伏博

昭和一九年五月三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人東洋産商株式会社を罰金四億円に、被告人小林政雄を懲役二年及び罰金六〇〇〇万円に、被告人室伏博を懲役一年にそれぞれ処する。

被告人小林政雄においてその罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東洋産商株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都大田区矢口二丁目二八番九号(平成元年一〇月二六日以前は東京都新宿区西新宿一丁目一九番七号)に本店を置き、不動産売買及び仲介等を目的とする資本金五〇〇〇万円の株式会社であり、被告人小林政雄は、昭和四七年九月八日に被告会社が設立されて以来被告会社の代表取締役の地位にあって、その業務全般を統括しているものであり、被告人室伏博は、被告会社のため不動産の買収等の業務を行っていた株式会社トム・コンサルタントの代表取締役をしているものであるが、被告人両名は、互いに、及び被告会社のため不動産の買収等の業務を行っていた日建工業株式会社の代表取締役であった元相被告人福田葵とそれぞれ共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地建物の購入費を水増しし、架空の買収協力費を計上するなどの方法により、土地譲渡による所得を秘匿した上

第一  昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一二億二一〇九万八七〇六円(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が一八億二八六四万八〇〇〇円であったのにかかわらず、同六一年五月三〇日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所轄淀橋税務署(同六二年七月一日新宿税務署と名称変更)において、同税務署長に対し、所得金額が四億三三五六万五〇〇円、課税土地譲渡利益金額が一〇億一二〇八万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三億七四〇四万六六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成二年押第五一四号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額八億七八三六万三〇〇〇円と右申告税額との差額五億四三一万六四〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一九億二三六九万一四五八円(別紙3修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が二四億六八四三万一〇〇〇円であったのにかかわらず、同六二年五月三〇日、前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一三億六二六六万一〇七四円、課税土地譲渡利益金額が一九億一九八四万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額が九億五六一二万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一三億八七六万八七〇〇円と右申告税額との差額三億五二六四万二九〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二一億七〇九五万五四三四円(別紙5修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が三七億五五二七万一〇〇〇円であったのにかかわらず、同六三年五月三一日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一一億一二〇八万四六四三円、課税土地譲渡利益金額が二六億七五一七万一〇〇〇円であり、これに対する法人税額が九億六八六五万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六億四四二七万二四〇〇円と右申告税額との差額六億七五六二万一三〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人小林の当公判廷における供述

一  第一回、第六回ないし第八回各公判調書中の被告人小林の各供述部分

一  第一回、第八回、第九回、第一二回各公判調書中の被告人室伏の各供述部分

一  第九回ないし第一二回各公判調書中の元相被告人福田の各供述部分

一  被告人小林の検察官に対する平成二年五月一日付、同月四日付、同月六日付、同月九日付、同月一二日付、同月二〇日付(本文二二枚綴りのもの。被告会社及び被告人小林の関係のみ)各供述調書

一  被告人室伏の検察官に対する平成二年五月四日付、同月五日付(二通)、同月七日付、同月九日付、同月二〇日付(二通)各供述調書

一  元相被告人福田の検察官に対する平成二年五月三日付、同月二〇日付各供述調書

一  高際幸子の検察官に対する平成二年五月一一日付(二通)、同月一三日付(本文一三枚綴り及び三枚綴りのもの二通)各供述調書

一  収税官吏作成の土地建物費調査書、協力費調査書、物件共通原価次期繰越高調査書、債券償還益調査書、事業税認定損調査書、課税土地譲渡利益金額調査書、課税土地譲渡利益金額補正調査書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  登記官作成の被告会社の登記簿謄本(二通)

判示第一及び第二の各事実について

一  被告人室伏の検察官に対する平成二年五月一五日付供述調書(本文二〇枚綴りのもの)

一  元相被告人福田の検察官に対する平成二年五月一四日付(本文一〇枚綴りのもの)、同月一五日付(本文一二項・六枚綴りのもの)各供述調書

一  大蔵事務官作成の支払手数料(販売費)調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

判示第一及び第三の各事実について

一  被告人小林の検察官に対する平成二年五月一四日付供述調書

一  被告人室伏の検察官に対する平成二年五月一一日付供述調書(本文七枚綴りのもの)

判示第一の事実について

一  被告人小林の検察官に対する平成二年五月一五日付供述調書(本文八枚綴りのもの)

一  被告人室伏の検察官に対する平成二年五月一一日付(本文一五枚綴り及び一六枚綴りのもの二通)、同月一二日付(二通)、同月一五日付(本文二三枚綴りのもの)、同月一六日付(本文八枚綴りのもの)各供述調書

一  元相被告人福田の検察官に対する平成二年五月一〇日付(三通)、同月一一日付、同月一四日付(本文三枚綴り及び一五枚綴りのもの二通)、同月一五日付(本文六項・六枚綴り及び九枚綴りのもの二通)各供述調書

一  収税官吏作成の支払手数料(売上原価)調査書、交際費調査書、交際費損金不算入調査書

一  押収してある被告会社の昭和六一年三月期分の法人税確定申告書一袋(平成二年押第五一四号の1)

判示第二の事実について

一  被告人小林の検察官に対する平成二年五月一八日付供述調書

一  被告人室伏の検察官に対する平成二年五月一六日付(本文一三枚綴りのもの)、同月一七日付各供述調書

一  元相被告人福田の検察官に対する平成二年五月一五日付(本文八枚綴り及び七枚綴りのもの二通)、同月一七日付(本文一七項・一一枚綴りのもの)、同月一八日付(本文五枚綴りのもの)各供述調書

一  高際幸子の検察官に対する平成二年五月一三日付供述調書(本文五枚綴りのもの)

一  収税官吏作成の雑収入調査書

一  押収してある被告会社の昭和六二年三月期分の法人税確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  被告人小林の検察官に対する平成二年五月一五日付(本文二五枚綴りのもの)、同月一六日付、同月一九日付(本文一四枚綴りのもの)各供述調書

一  被告人室伏の検察官に対する平成二年五月一三日付(二通)、同月一四日付(三通)、同月一九日付各供述調書

一  元相被告人福田の検察官に対する平成二年五月一二日付、同月一三日付(三通)、同月一八日付(本文一五枚綴りのもの)各供述調書

一  押収してある被告会社の昭和六三年三月期分の法人税確定申告書一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

一  罰条

被告会社 判示各所為について、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人小林 判示各所為について、刑法六〇条、法人税法一五九条一項、二項(情状による)

被告人室伏 判示各所為について、刑法六五条一項、六〇条、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人小林 判示各罪について、懲役刑と罰金刑の併科

被告人室伏 判示各罪について、懲役刑選択

三  併合罪の加重

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

被告人小林 懲役刑について、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

罰金刑について、刑法四五条前段、四八条二項

被告人室伏 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に加重)

四  労役場留置

被告人小林 刑法一八条

(量刑の理由)

本件は、昭和四七年に不動産の売買・仲介業を営む被告会社から発足して、現在では都心部等で広くビルの建築、賃貸等の事業を行い、市街地再開発をも手掛けるまでに発展したコリンズグループと称する会社グループの中にあって、同グループの土地仕入部門を担っていた被告会社の業務に関し、被告会社を始めとして同グループの全社のオーナー径営者である被告人小林と、被告会社の土地取得のための買収交渉等を専ら行っていた株式会社トム・コンサルタントの代表者である被告人室伏、及び同被告人とともに右買収交渉等に当たっていた日建工業株式会社の代表者である元相被告人福田葵の三名が共謀して、被告会社の土地譲渡による所得等に関して行った法人税の脱税事案である。

脱税額は、昭和六一年三月期が五億四〇〇万円余、同六二年三月期が三億五二〇〇万円余、同六三年三月期が六億七五〇〇万円余であり、各年度の脱税額自体それぞれ多額であるばかりか、三年度の合計では一五億三二〇〇万円余りに達し、脱税額が大きくなっている最近の脱税事犯の中にあっても、その脱税額の大きさにおいて上位にある事案である。しかし、その脱税率は、三年通算で四〇パーセントであって、法人税の脱税事犯の中では、特に本件と同時期ころに行われた不動産取引による所得を中心とした脱税事犯の中にあっては、低い方であるといえる。

脱税のために採られた方法は、土地仕入れ代金や仕入れ経費を過大に計上する方法である。すなわち、被告会社が入手しようとする土地等について、その買収交渉に被告人室伏のトム・コンサルタントと福田の日建工業を当たらせて、日建工業の名義で所有者等地権者から買収した上、被告会社が日建工業から買い入れる際、実際価格に水増しをし、その水増しした金額を被告会社において一旦日建工業に支払い、後日、水増しした分からトム・コンサルタントと日建工業に対する二割相当の謝礼金、いわゆるB勘手数料を差し引いた金額を、日建工業から被告会社に現金で戻させる方法と、被告会社が土地等を直接地権者から買収する際に、現実にはトム・コンサルタントや日建工業が何ら買収に関与していないにもかかわらず、買収協力費や仲介手数料の名目で両者に金員を支払い、二割相当のB勘手数料を差し引いて被告会社に戻させる方法の二通りが採られており、これらの方法のため、脱税を行うに適切な物件を選定した上、物件の取引に際し虚偽内容の契約書等の関係書類を整え、あるいは被告会社に金員を戻させるに当たっては、税務調査等で不審を抱かれないように何回かに分けるよう配慮を巡らすなどしており、このように、計画的にかつ周到に不正工作が行われている。

脱税の経過、動機について見ると、被告会社の代表者である被告人小林に関する事情が存在する。すなわち、被告人小林は、昭和四七年に被告会社を設立して事業が軌道に乗り出した同五四、五年ころから、仲介手数料や企画料の名目で架空の経費を計上する方法により脱税をして、簿外資金を作ることを行っており、その理由は、次にも述べるように、過去に経営していた会社が順調にいっていたにもかかわらず突如倒産に遭い、多くの従業員やその家族らに悲惨な目に会わせるという忘れられない辛い経験をしており、そこから何時いかなる事情から倒産の危機が訪れるかもしれないとの不安感を拭い切れず、被告会社の経営危機に備えねばならないとの意識にとらわれていたことに主としてあり、それに加えて、不動産買収に伴う地権者等に対する裏金等の表向きにできない金員を作るためであった。そうして、昭和五九年二月ころ、信頼する被告人室伏から、当時経済的に困窮していた福田を助ける意味で、福田に被告会社の土地買収に一緒に当たらせるとともに、被告会社の裏金作りを手伝わさせて謝礼金を与えて欲しい旨懇請され、当初は断ったものの、結局情にほだされる形で、被告人室伏を立て福田を助ける趣旨をも込めて、被告人室伏及び福田に手伝わせて本件脱税につながる簿外資金作りを大規模に始めたのであり、本件脱税も、それに先立って行われていた前記簿外資金作りと同じく、被告会社が経営危機に直面した時に備えるためというのが主たる理由であった。なるほど、被告人小林が、逆境に育ち様々の挫折に会いながら、人一倍の努力を重ねて電気工事会社を営むようになり、経営も順調にいっていたところ、下請業者の背信行為や取引先会社の倒産によって突如倒産のやむなきに至り、その際多くの従業員やその家族を路頭に迷わせるという辛く苦い経験をし、その後零から始めて、努力と着想と熱意によって被告会社を発展させ、単なる不動産売買の仲介からビル建築、更には地域開発・街作りをも目指す会社グループを形成するに至ったのであるが、右倒産の経験から何時経営危機に見舞われるかもしれないとの意識が離れず、そのため危機に備えねばならないとの気持ちが一層強かったもので、その心情は理解できるとしても、やはり、倒産の危機に備えて脱税を図ることは、社会の犠牲において自己の会社の保全を図るということであって、本件に対する刑責を考えるとき、本件脱税の理由が特段に酌むべきものとまではいえない。

被告人両名が本件犯行で果たした役割を見てみる。被告人小林は、前記のとおり、被告人室伏や福田からの頼みがあったとはいえ、本件脱税を行うについては被告会社の代表者の立場で自ら決断したことであり、また、不正行為の実行方についても、不正を行う物件の決定、買入れ価格の水増しないし架空買収協力費等の計上の方法の選択、水増し金額や架空経費の金額の決定をいずれも自ら行い、水増し金額については買入れ価格が不自然と見られない金額にするよう配慮して決め、決定した水増し金額や自ら二割と定めた被告人室伏らの報酬等を記載したメモを作成して、そのメモに従った行動を被告人室伏と福田に指示し、さらに被告会社内の者に指示して脱税工作のための虚偽内容の契約書等を作らせるなどしており、脱税のための工作を主体的に行っており、また、本件により被告会社の作った簿外資金については、無記名割引債券を購入して自ら秘匿しておいたものであり、被告人小林は本件脱税についての主犯者の地位にあり、負うべき責任は一層重い。

被告人室伏は、昭和五八年八月から、前記トム・コンサルタントにおいて被告会社のため土地買収に従事し、同五九年初めから福田にも手伝わせるようになったが、福田から、経済的苦境にあるので、被告会社の裏金作りに協力して謝礼金を貰いたい旨の話を持ち掛けられて、同情心から何とか助けてやりたいとの気持ちを抱き、企業人としても人間的にも深く尊敬している被告人小林のためにもなり、自己もなにがしかの利益にあずかれるのではないかとの思いから、福田の話を被告人小林に伝え、当初難色を示した同被告人を自分が責任を持つと積極的に説得して、被告人小林に決断をさせて本件脱税につながる一連の裏金作りを始めさせるに至ったものである。そして、被告人室伏は、その後、福田とともに報酬を得ながら継続して脱税のための不正工作に加担し、その報酬として二億円を超える不正な利益を得ているのである。こうした事情からすると、被告人室伏の責任は軽視できない。

なお、ここで福田の役割について触れておく。福田は、日建工業を事実上倒産させ、多額の負債を抱えて経済的苦境に陥っていたことから、負債の返済や日建工業の再建のための資金を何とか得ようと考え、自ら積極的に被告会社の裏金作りへの協力の話を持ち出したものであり、報酬が欲しいため時には具体的な裏金作りの工作を促したり、被告会社に裏金を戻す際やトム・コンサルタントに報酬を分配する際、休眠会社等発行の架空領収証を使って架空の外注費を計上するなどして、不正行為が発覚しないよう行動し、あるいは、被告会社における架空の買収協力費等の支払いにつては、自己の日建工業が買収に協力しているかのように仮装するなどしている。このように、被告人小林が被告会社の本件脱税を行い継続するについては、福田の与えた影響、果たした役割は大きく、しかも脱税に協力した報酬として数億円に上る不正な利益を得ている。その上、福田は日建工業に税務調査が入るや、被告人小林や被告人室伏に脱税の証拠となるメモ類を処分させるよう働きかけたり、被告人室伏に査察が及ぶと国税局を押さえるためとして同被告人に数千万円を出させたり、被告会社への査察後はしきりにいわゆる揉み消し工作をにおわせるなどして、犯罪隠蔽工作を持ち出しては自己の利益をも図ろうとしているのである。以上の事情によれば、福田の責任は決して軽くなく、被告人室伏のそれよりも重いことは否定できない。

一方、被告人らのために酌むべき事情について検討する。

本件により現実に租税収入が害された額は、前記のとおり多額に上るのであるが、被告会社への査察後、被告人小林の意向で早急に脱税にかかる本税はもちろん、延滞税、重加算税等の附帯税がすべて支払われ、脱税額が多額であるにもかかわらず、その現実の法益侵害の回復は速やかに行われたといえる。

被告人小林は、逆境に育ち、多くの辛酸を嘗め、いく度も挫折に会いながら、通り一遍の言葉では表現できない血の出るような努力と並外れた才覚、不屈の精神でもって、何事にも最善を尽さないでおかない真摯な態度を貫き、自らの人生を切り開いてきたものであり、そのこれまでの人生は、まさに聞く者を驚嘆させずにおかず、その生涯の人生は、被告人自身にとってビル建築の傑作にも譬えられるものになるのではないかと推測されるのである。こうした被告人小林の自ら築いてきた人生は、やはり被告人にとって酌むべき事情として、量刑上考慮されるべきところである。

被告人小林は、先に述べた理由から簿外資金作りを行っていたが、被告会社を含むコリンズグループの事業規模が大きくなり、到底簿外資金をもって倒産の危機を免れることができるような状況でなくなったことを自覚して、査察を受ける以前に自主的に福田らを使った簿外資金作りを止めており、査察を受けると、正直に進んで事実関係の解明に協力し、簿外資金として隠匿していた全ての割引債券を自主的に提出し、また、査察後修正申告を速やかに行って、本税、延滞税、重加算税の即時完全納付を実行している。このように、被告人小林は、自己の行った行為の非を素早く悟り、率直にしかも顕著に反省の態度を示しており、それは捜査、公判を通じて一貫して変わりがなく、また、本件脱税を行ったことを省みて、コリンズグループに外部から人を招くなどして、ワンマン体制の欠陥を補い、本件ごとき誤りが行われないよう監視を受ける態度を整え、さらに、贖罪の積もりも込めて、これから企業人としてあるいは個人として会社に奉仕し貢献することを一層行っていきたいとの考えを述べ、現にその一つとして個人的に心身障害児医療療育施設に一億円の寄付をすることとし、その一部二五〇〇万円を既に出捐している。このように、被告人小林は、深い反省の態度を示すと共に、その反省の態度を具体的な行動をもって示しているのである。そして、被告人小林は、本件起訴の対象となっている期間においてもまたその後の期間においても、自らオーナーであり代表者を務める被告会社以外の会社においては、脱税を行った事跡はないばかりか、年々合計して多額の納税を行っており、本件脱税が発覚後はコリンズグループとして納めねばならない多額の納税に鋭意努力しており、これらは、被告人小林の納税についての規範意識が本来特に劣っていたり、本件が全く社会を無視した利己的な考えから出たものではないことを示すと共に、本件後は社会的にも一定の評価と信頼を得ている会社経営者の立場から、納税についての自覚を一層強めていることを証明するものといえるのである。

被告人小林及び被告会社を含む同被告人が経営する会社グループが、私企業の営利の枠にとどまらず、ビル建築とそれを発展させた街作りを通して会社に貢献することを考え、それを実践していることを無視することができない。すなわち、被告人小林は、昭和六〇年ころから、ビル百棟計画と称して、よりよい都市空間をもたらし、美しく周囲の環境にも良い影響を与えるビル建築を目指し、独創的なアイデアを活かしつつ、時には採算性をも無視して数多くのビルを建築し、それらビルは地域に好影響をもたらすものとの社会的な評価を得ているのである。さらに、被告人小林は、単一のビル建築からビル群の建築によって近未来にふさわしく美しい都市環境・街作りをするという理想を抱き、それを実現するため、コリンズグループにおいて、一定市街地域の再開発により、より高価値のオフィス環境と快適な都市居住環境を提供し併せて地域の活性化も図るとして、新宿区や荒川区の既存の市街地域を再開発する大規模な計画を立て、自治体や地元の住民らの賛同も得、計画実現に協力する大手銀行を始め多くの金融機関から多額の融資を受けて、鋭意土地の買収を進め、本件起訴前から一貫して計画の実現に向けて全力を挙げ精力的に取り組んでいる。この地域再開発計画は、もはや単なる私企業の営利の範囲内にとどまるものではなく、公益のための公共的性格を帯びたものである。このように、いまや被告人小林及びその経営する会社グループが、公益のための公共性のある事業活動を現に行っていることは、量刑に当たって斟酌されるべきところである。

被告人小林がオーナー経営者である会社グループのコリンズグループが、右のように公共性のある事業活動を行っていることに加えて、同グループは、事業計画の立案・実行、金融機関等との対外的関係など、事業経営の基幹をなす部分は被告人小林の人格、才能、才覚に負うところ大きく、同被告人が欠けるならば、前記諸計画に影響、障害が生じ、その推進、実現に多大の困難をもたらし、各計画の前途が予断を許さないことにもなり、もし前記新宿区及び荒川区の各計画が頓挫することとなれば、その及ぼす影響は容易ならざるものがあり、コリンズグループの枠を越えて関係各方面に与える直接間接の損害は測り知れず、及ぼす社会的影響、失われる社会的損失は余りに大きいものと考えられる。このように、被告人小林に対する刑のいかんにより大きな社会的影響を及ぼし、予想も困難なほどの社会的損失を招く恐れがあることは、やはり量刑に当たって考慮せざるを得ない。

被告人室伏については、本件に対する査察調査に協力して一貫して事実を認め、捜査、公判を通じても深い反省の態度を示していること、本件脱税のための不正行為の実行そのものには余り手を貸しておらず、脱税額が大きくなるについて被告人小林に積極的に働きかけたということもないこと、本件でトム・コンサルタントにおいて報酬として得た不正利益についても、法人税の修正申告をして新たに約三億二〇〇〇万円納税し、その全てを提出していること、被告人室伏はその経営するトム・コンサルタント等の会社の経営維持にとって欠くべからざる存在であること、同被告人も必ずしも恵まれた環境に育ったわけでないのに、その努力によって今日の立場を築いてきたこと、家庭の状況等の酌むべき事情がある。

なお、被告人小林の弁護人は、本件脱税の原因である土地譲渡は、被告人が全ての会社のオーナーであるコリンズグループ内での被告会社から他の会社への土地譲渡であって、グループ全体として見ればそこには実質的に土地譲渡による収益が存在せず、被告人小林自身もそのように認識していたのであるから、本件は違法性が低いというべきである旨主張する。しかしながら、法人税が個々の法人単位に課税されるものであることはいうまでもなく、被告人小林自身も当然それを認識しており、本件脱税のための工作もまさに法人単位に課税されることを認識した上で行われたのであり、脱税についての認識としてはそれら認識で十分であり、弁護人のいう会社グループという概念は法人税法上取り入れておらず、法人税の脱税の有無・程度を決するのに会社グループに利益が生じているかどうかは関係のないことであるから、グループ内での土地譲渡で実質的には収益を生じていないとか被告人がそう認識していたとかは、法人税の脱税の違法性の有無・程度を決めるに際し特に考慮されることではなく、弁護人の主張は採り得ない。ただ、本件が、同時期ころに行われた不動産譲渡に絡む脱税事犯の多くに見られるように、専ら土地売却による利益を稼ぎそれをより大きくするため脱税までもしたという場合とは異なることは、前述したところからも明らかであり、その点は考慮されることとなる。

以上に述べた諸事情及びその他の事情を考慮した上で、脱税事犯においては、やはり脱税額の大きさに比例して責任を量らざるを得ず、また、申告納税制度をとる税制度の下では、脱税についての一般予防ということを重視せねばならないことから、本件のごとく多額の脱税を行った被告人両名についてはその刑事責任は重く、いずれも懲役刑の実刑を免れることはできない。しかし、被告人小林については、先にコリンズグループが推進している事業計画について述べた、同被告人の長期間の服役によってもたらされる恐れのある社会的影響・損失の点を特に考慮して、その刑期を主文程度にとどめるが、罪刑の均衡から罰金刑を併せて科すこととした。したがって、主文のとおり被告会社及び各被告人について刑を量定した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 西田眞基 裁判官 渡邉英敬)

別紙1 修正損益計算書

<省略>

別紙2 脱税額計算書

<省略>

別紙3 修正損益計算書

<省略>

別紙4 脱税額計算書

<省略>

別紙5 修正損益計算書

<省略>

別紙6 脱税額計算書

<省略>

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